芥川龍之介の『蜜柑(みかん)』は、短いながらも鮮やかな色彩に満ちた作品だ。
電車の中、窓の向こうの風景、少女の仕草。
そのひとつひとつがまるで絵画のように浮かび上がる。
日本語で「色」を感じるとはこういうことか、と読むたびに思う。
近代文学は難しいと思われがちだが、『蜜柑』は驚くほど読みやすい。
古い言葉が少なく、時代の知識がなくても物語の情景が自然に伝わる。
娘と朗読してみると、リズムが美しく、声に出すたびに言葉の響きが変わる。
短いからこそ、親子で一緒に読むのにちょうどいい。
読み終えたあとも、あの最後の光景がしばらく心に残る。
短くて、美しくて、静かな余韻を残す作品。
娘と何度か読み返すうちに、言葉の奥にあるやさしさのようなものに気づくことができた。
